ある紙上の感情

僕は
透明な瓶をいくつも庭にさし込んで、中におかあさんやおとうさんの脳を入れて、「せいちょう」させていた。雨が降ると苦しそうにぼふぼふと言ったけれども、それ以外は静かなものだった。
僕は
鳩と踊る為に鳩の鳴く方法を片方に聞いた。片方は上手に声マネをしてくれた。けれども僕にはその声マネができなかったから僕に鳩はよって来なくって、それを見た片方が片方によって来た鳩を僕の肩にとまらせてくれたけれど、鳩は僕と踊ってくれなかった。片方は目を吊上げて鳩の羽をむしってしまったけれど、鳩が悪いんじゃない事は僕にも片方にも明らかで、片方は夜うなされた。これは、片方が勝手にやった事だけれど、僕が悪い。
僕は
銀杏並木を歩きながら銀杏を土に埋めている。銀杏並木が銀杏まみれになるように。
僕は
僕と一緒にいる片方を夜見ている。片方の言う事が分からなくなってきてしまったから耳を潰そうと考えている。けれども片方の自慢は声音らしいので、その自慢が聞こえなくなってしまうのは、片方を酷くがっかりさせるかもしれないと思っている。けれどもけれども、僕はもう半分よりたくさん片方の言う事がわからない。僕は分からなくないフリをしているのが嫌になった。分からないという事はもっと嫌になった。
僕は
簡単な事を思いつく。ハナを育てる事にする。僕の関心も愛情も視線も嗅覚も全てハナに向ける事にする。片方の半分よりもっとわからない話しは聞かなくてもよくなる。
僕は
片方に酷く怒られる。僕のしている事について注意される。そういう事は悲しい事だと諭される。
僕は
苔を喰って生きれたらいいのにと思う
僕は
庭に咲いたおかあさんとおとうさんの話しを聞く事にする。おとうさんもおかあさんもぼろぼろと涙をながして、けれども何を思っているのかさっぱりわからない。
片方は脱皮して皮だけが残っている。雨の日は片方の皮を被って外にでる事にしている。おかあさんとおとうさんはそれでも夜は静かになる。