腹の中がぽかっと空いたような感触があり、痛くも痒くもないのだけれど。ついでに言えば胸が痛いみたいな感傷的な事でもない。嫌な感触であるのはそれに名前がついていないからかもしれない。名前のないものに興味を持つのもひとつの対処法ではあるけれど、わたしはこの、便宜上穴という事にする、穴に興味など持ちたくはないし、嫌悪してさえいる。気がする。なにしろ正体不明の無名の穴だ。自分の立ち位置からして不明なんである。
それでこの穴の側面を影が揺れていて、それもまた痛くも痒くもなく、なんだったら心地良くてもいいような感触でうろうろしている。
わたしには自傷癖といったものはないけれど、こういう曖昧な穴みたいなものがあるともっと解りやすく傷つけられないものかと思う。暴力的に傷つけられれば血が出るわけで、当然痛みもあるだろうし、感情の出口だって広くなろうというものだ。痛みを加えた何者かを憎む事で立上がり、睨みつける事で目が開く。血が溢れ出す事、痣ができる事、意識が朦朧となる事は自分の存在を手っ取り早く知る方法のような気がしてくる。