特徴のない事情

具合の悪い事になっている。このままでは全てぶち壊したくなる。破壊衝動というと何となく格好が付くような気がするけれど、要は壊される前に壊しちまえという弱者の言い訳じゃないだろうか。何かに対する言い訳(私が私に対して)であればまだましだと思うのだけれど、それにしたってそういう個人的な事で他人を無闇にないがしろにするべきではないと毎度毎度反省したふりをする。一時的に停止していた剥離がまた再開して、終った事を蒸し返される。蒸し返しているのはつまり、私なのだけれども。そこまで解ったような気持ちになって、であるから、解決法は明白であるのだけれど、試そうとしない。つまり、明るく元気に気持ちよく暮らしたらいいのだ。全ての解決法はここにあるよねと私は随分前から知っている。で、何故だか他の人に言われると腹立つのね、この言葉。多分、もう知っているから、知っていて出来ないから怒るんだね。核心を突かれると怒るじゃない?人って。多分、聞きたくもないだろうから話さない。話しても伝える力が無いので話せない。メビウスの環に違いない。違うと思って歩いているとまた、見た事のある場所に戻る。最終的にチビクロサンボの虎のように美味しい蜜にでもなれると非常にありがたいのに。



大きい裸の女の人がいて、その人から蜂蜜のようなトロトロした美味しい液体が流れ落ちている。女の人の表情は大き過ぎて見えないのだけれど、涙を流しているんじゃないかと思う。昨日、天野可淡の写真集で見た人形の様な顔。でも決して不幸じゃないんだ。それに、ある種の女が使う涙でもなくて、産まれた時に流す涙みたいな、流している本人が説明できない涙。その女の人は四つん這いになって、恐らく泣いていて、トロトロの蜂蜜(みたいなもの)を流している。身体から落ちる蜂蜜(取りあえず)は幾筋も垂れていてその一本一本に何体もの人形をぶら下げている。よくよく近くで見たら、人形達はぶら下がって居るので無しに登っていたのだけれど。上り切った人形はいないみたいだった。カンダタの様な奴は一体もいなくてユルユルと遊びながら上っている。逆さまの奴がいるから。女の人の下が決して地獄じゃないという事の証明に違いない。蜂蜜がひっきりなしに流れ落ちてくる割に、蜂蜜の海が広がるでもなく、蜂蜜は地面に吸われるみたいだ。人形は次々作られてあるところ迄上って落ちてくる。地面で砕けて新しい人形のパーツになる。人形師達はひっきりなしに自分の作品と言って、自分の子供といって人形を産み出すけれど、産み出した作品にちっとも興味がない様に見える。ウロウロした末、ある一筋に私も上ってみようと思う。蜂蜜の粘着で難なくスラスラと上れる。疲れたら背中をくっつけて眠ったりもできる。もちろん、人形達は眠らないけれど。眠っている私を乗越えてスタスタと上っていく。落ちてくる人形の顔を見た。人形からのメッセージは「なにもない」。人形師が込めたらしいメッセージを私は受け取らない。人形師にはメッセージが無かったのかもしれない。ユルユルと上って人形の落ちるところに着いたけれど、私が落ちる事はない。下には人形師の作業場が見える。ここからだと、人形も人形師も全く違いがない。生活が見えない事に酷く安心する。ここには生活が無い。私を尻込みさせる、億劫にする、首を絞める、生活が無い。ソラには雲がたくさんある。グルグルと渦を巻いた様な線で描かれた雲がある。傘を取り出して私はそこから飛び降りる。フワフワ。